かごしまんまを立ち上げたきっかけ

2011年3月11日。
私は勤務していた千葉県内の小さな建築会社で、あの大きな揺れを経験しました。

当時、勤務していたその会社にはなぜか世界一バカでかいメインクーンという猫が2匹いて、ちょうど机に図面とその猫を広げていたところでした。
大きな揺れにビックリすっ飛んでいった猫と図面に代わって、あらゆる書類ファイルや分厚い本たちが机と床に雪崩れ込んで机の上に積み重なる光景に、ただただ呆然としました。
すぐに保育園に子供達を迎えに行くと、園の全員の子供達が防災頭巾を被って送迎バスの中で待機していました。
あちこちで電柱や塀が倒れ、信号機は停電し、電車も止まってました。
ガソリンスタンドには数キロの行列。
東京から延々と歩いて帰ってくる人。
千葉の郊外タウンはあらゆる機能を停止させていました。

ほどなくして原発事故が起こり、スーパーやホームセンターから食料や水やトイレットペーパーなどの日常生活用品が消えていきました。
市から「乳幼児には水道水を与えるのを控えましょう」的なお知らせがきたり、小松菜やほうれん草や椎茸の出荷制限が出たり。
調べれば調べるほど心配になることばかり。当時は情報もニュースも錯綜していました。
雨も土も食料も水も何もかも怖くなってしまいました。

そんななかで両親から毎週のように送られてきた季節の野菜と食材と牛乳。
段ボールいっぱいに詰められていました。
父が東京消防庁を定年退職した2006年、両親は千葉から父の故郷である鹿児島へとUターン移住して、家庭菜園や魚釣りで老後ライフをエンジョイしていました。
届いた段ボールを開封するたびに、涙が溢れ出ました。

経験したことのない状況下で悶々と過ごしていた矢先。
鹿児島に住む両親から、1本の電話がかかってきました。
「健康診断でね、お父さん膵臓癌なんだって。色々転移しているんだって。」
その後の会話はもう何も覚えていません。
電話の後、大泣きしたのは覚えています。

母は埼玉の出身で関東育ち。全く鹿児島では土地勘がありません。
しかも身体上の理由で車の運転免許を持っていません。
電車のない鹿児島の大隅半島で、母が一人で余命わずかな父の看病をしながら暮らしていくのは、明らかに困難でした。


電車はないが、フェリーはある鹿児島。桜島フェリーは噴火時の防災を兼ねて24時間15分おきに運行している。

とはいえ、私も千葉生まれ千葉育ち。
建築士と宅建の資格をとって、やっとなんだか安定してきたところに大地震。
田舎ではそんな資格は役に立たないだろうこと、そして仕事を見つけることは難しいだろうことは容易に想像できます。

鹿児島で、私に何ができる?
何をすれば、やがて来る父の死を乗り越えられる?

変わらず毎週のように届く食材と野菜。
ふと、思いました。
『私と同じ気持ちや不安を持つ人に、鹿児島から野菜や食材を届ける仕事をしよう!』

2011年12月。鹿児島へ移住し、株式会社かごしまんまを設立しました。
お金を全く持ってなくて、登記しただけで資金ゼロになりました。
最初は一人で全部やることにしたので、HPを自分で作り込んでいたのでは、取引先の獲得や営業ができません。
そこでパワーポイントで会社案内と経営計画をつくって印刷し、鹿児島銀行の窓口に持ち込みました。
2011年当時の鹿児島の大隅半島ではパソコンが普及しておらずスマホもない時代。インターネット上で注文を受けてそれを宅配便で送るシステムは、農家の皆さんはじめ、銀行の担当者までがあまりピンときていない様子で、実店舗を持たないネット上のお店を説明するのにはとても苦労しました。
それでもなんとか融資を受けることができ、通販サイトを開設し、2012年3月に最初の野菜セットを発送することができました。
記念すべき最初の出荷は5セット。
この5セットを見届けて父はまもなく歩けなくなり、2012年4月に他界しました。

当時はツイッターでお知らせして、それを見てくださった方々が拡散してくれて、だんだんと注文が多くなって自分一人ではできなくなってきました。
そこで東京から同じ時期に移住してきたみきちゃんが仕事を手伝ってくれるようになりました。


地元の農家さんから仕入れる野菜をセットにして出荷前日につくっていきます。


2013年当時の実際のご注文。野菜セット以外にも色々商品を取り扱ってきました。

ここ鹿児島の野菜はワイルドな大きさで虫の穴もたくさんあるばかりか、虫本体やカタツムリまでくっついていたりもします。
たしかにそれはあまり気持ちの良いものではありません。
でもちゃんと考えれば、それは農薬があまりかけられていない証拠。

また南国鹿児島では、夏にはキャベツやニンジンや玉ねぎや大根が姿を消します。
でもちゃんと考えれば、冬野菜が夏に消えるのは自然界にとって当たり前のこと。

当時の関東のスーパーの野菜は皆キレイで同じ大きさのものばかり。
いつも季節問わず全ての野菜が揃っていました。
なので夏場になると、お客さんからよく九州産のキャベツや大根が欲しいとリクエストされました。

・・・無理だっつーの!!という言葉はいったん胸にしまって。

野菜セットや食材には毎回、【かごしまんまだより】を同封してそこに、虫がいる理由やキャベツが夏に消える理由、夏場はずっとゴーヤばかり続く理由などをテーマに書いていきました。

すると最初は虫が野菜の間から出てきてお怒りになっていたお客さんも、年々少なくなっていき、逆に「野菜についていた青虫を育てて蝶にしました!」なんて報告をお客さんから頂くようになりました。

かごしまんまだよりには、食の安全に関することを毎回テーマにして書いてきました。
添加物や農薬のことを書いたり、水俣の資料館や星塚敬愛園を訪問してレポートを書いたり、中医学では季節の野菜こそがお薬になること(薬食同源ですね)を書いたり、色々な情報やテーマを中心に書いて、野菜セットに同封してきました。

「今までのものを全てファイルにしてとってあります」なんていうお客さんも多いかごしまんまだより。

そんなかごしまんまだよりも今月と来月だけは、このクラファンのことを情熱を持って書かせていただこうと思います。
かごしまんまユーザーの皆さん、どうかお許しを・・・。

山下理江

2023年 12月 15日 Blog | クラウドファンディング活動報告